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東京高等裁判所 昭和39年(く)63号 判決 1964年5月19日

被告人 高田初義

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する窃盗未遂、現住建造物放火被告事件について、昭和三十九年五月十一日東京地方裁判所がした勾留更新決定に対し検察官から抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す

理由

本件抗告の要旨は本件被告事件について昭和三十九年四月二十日原裁判所の裁判官真野英一が発した勾留状による勾留期間はその勾留の日より二ヶ月であるから、刑事訴訟法第六〇条第二項により右勾留を更新する場合には、同年六月二十日よりこれをすべきであるのに、同年五月二十日より更新する旨決定したことは法令に違反し取消さるべきものであるというのである。

よつて勘案するのに、原決定は被告人が本件放火罪等により起訴された当時は、別の窃盗罪による勾留状を利用して審理が進められていたのだから、その後本件起訴事実により勾留状が発せられた場合は、後の勾留は実質的に利用されていた先の勾留の継続と見るべきであるから、勾留の更新と同視してその期間を一ヶ月と解すべきであるという見解を前提とするものであるが、先の窃盗罪の勾留を利用して本件事件の審理が進められていたという事実だけで、本件被告事件について発せられた勾留状による勾留が前の勾留の継続と見ることはできない。本件放火罪等につき発せられた勾留状は、前の窃盗罪には関係なく、従つてその勾留には関係なく、刑事訴訟法第六〇条第一項に基いて発せられたものであるから、その勾留期間も同条第二項により公訴提起の日より二ヶ月とすべきである。ただ右二ヶ月の期間の起算日は現実の勾留が公訴提起以後である場合は、公訴提起の日よりとせず現実に勾留が始まつた日からとすべきことは同法条の解釈上疑いを容れないところである。したがつて本件においては検察官所論の如く本件につき勾留状が発せられた昭和三十九年四月二十日より二ヶ月を経過した同年六月二十日よりその勾留を更新すべきであるのに、原裁判所が同年五月二十日より更新すべき旨決定したのは法令の解釈を誤つたものであるから刑事訴訟法第四二六条第二項によりこれを取消すべきものとして主文のとおり決定した。

(裁判官 兼平慶之助 関谷六郎 小林宣雄)

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